大いなる意思

「掟破りの儚い生命」の続き。






空虚な宮殿に足音だけが響きわたる。
マルクトーレは薄暗い教会に足を進めた。
その教会の端にある「世界の意思」の像の前で足を止めた。その像はステンドグラスから溢れる微かな明かりに照らされながら悲しげに佇んでいた。静かに膝まづき、ゆっくりと目を閉じた。

掟破りには罰を与えなければならない。そうでもしないとこの世界は成り立たない。
マルクトーレは苦笑した。自分でこの世界を造り、掟を決め、そして自ら生み出した生命を"掟破り"として抹消する。全て自分自身で決めた当たり前の事だ。それなのに静かな喪失感が自身を襲うのだ。シータを苦しめ抹消したこの右手はやけに白かった。

すると、教会に服のなびく音と足音が響いた。コツン、コツンとだんだん足音がこちらへ近づいてくる。振り向かずともその足音の主はわかった。その足音が真後ろで止まり、優しい陽だまりのような香りが鼻をかすめた。この宮殿には限られた者のみ出入りを許可している。その中で私の許可なくこの教会へ入ってくるような者はあの人しかいない。

「…シャルビーネ」
「ラディウスの子の気が弱ってたから、心配になって」
振り向かずとも足音の主、シャルビーネのもの哀しげな表情も伺えた。立ち上がり振り向くシャルビーネの姿があった。案の定、もの哀しげな顔をしていた。…こんな時に会いたくはなかった。
「…見ていたのか」
「ええ」
シャルビーネは非常に慈悲深い人だ。先程の光景をシャルビーネが見ていたのだとすれば、苛まれるのは私だろう。
「シータはラディウスの理に逆らった。掟破りは消し去らねばならん。それは私が決めた掟だ」
「誰かをが愛する事が抹消に値する大罪だというの?」
「掟だから仕方が無い」
「貴方はシータの幸せを奪ったわ」
「掟は守らねばならん」
「掟、掟ってそればっかり!」
シャルビーネの涙混じりの怒鳴り声が教会に響き渡った。それに次に出る言葉を失った。
シャルビーネは俯いて手を強く握り締めていた。そしてシャルビーネはゆっくりと顔をあげ、涙で潤んだ目でまっすぐ見つめた。
「あなたなら掟を破らせないように、生命を創り出すことができたはずよ」
掟を破らせないように、か。
マルクトーレは世界の意思の像に目をやった。
「私も誰かに創られた身だ。なら私もこうして意思を持つように、生命を創り出すべきだと思っている。かつて世界の意思がそうしたように」

いずれ、マルクトーレはこの世界の創造神だから罰されることはないだろう。と、考える者も出るかもしれない。だが、私が決めた掟をラディウスの者が従うと同じ様に、私自身も「世界の意思」という「掟」に従っているのだ。
「この世は実に奇怪なサイクルで成り立っている」
先程は悲しく佇んで見えた世界の意思の像は威容を誇っている様に見えた。






何と言うか、ボキャ貧こじらせすぎて後半雑なんですけど…
るーく宅シャルビーネさんお借りしました!!!